【コラム】光の道の話

■光の道の話の前に

この話をするにはまず、NTTが民営化したころの話から始めなくちゃいけない。
原口さんの「光の道」というか、どうしても孫さんの話が話題の中心になってしまうけれども、そもそもNTTという会社がどういう成り立ちの会社なのか。そこをちゃんと知っておかないと議論にならない。その頃からの歴史を踏まえて、定点的にNTTについて経済学の観点から見ている人っていうのがとっても少ないの。僕が総務省のタスクフォースで座長をしている、一番の理由もそこにあるんだよね。

■さかのぼること30年

1980年代のはじめの頃ね、アメリカではAT&Tという会社が巨大企業として電話通信網を一手に率いていたわけ。
それこそ、電話を発明したベルが作った会社。アメリカ内でもグランマ(偉大なる母、おばあちゃん)って呼ばれていた企業。
そんなAT&Tに対して、AT&Tは独占禁止法違反です!分割しなさい!っていう判決が1982年に出たんだよね。

そうすると1984年にはイギリスでもブリティッシュテレコムが分割する。そういう議論の高まりで、1985年4月1日にNTTは株式会社になったの。それはつまり、電話に関する競争が認められたっていうことなの。

さて、日本の場合はどういう考え方でNTTを株式会社にしたかというと、総務省のもとで専用の特別な法律を作った。完全な競争環境に置くのではなくて、国のインフラとしての役割もしっかり果たしてもらいますよ。っていう形。

アメリカの場合は、自由にやらせてあんまりにも一企業がその市場を牛耳ってしまうと「独占禁止法ですよー!解体!」ってなるわけだけど日本はある程度「国のインフラとしてこれこれはしてくださいね!あとは自由に戦ってください」というスタンス。だから経済産業省のもとではなくて、総務省のもとで議論がされている。だから原口さんだったわけ。

■株式会社になって出来た会社

さて、そこで電話通信事業に参入した会社っていうのは、今JALをやってらっしゃるの稲盛さんの京セラが中心ではじまった第二電電。
これは今のauね。それからソフトバンクは国鉄の線路沿いに光ファイバーケーブルを通して通信事業に参入した日本テレコム。あとは日本高速通信とかっていう会社が参入したんだよ。

でもね、そこで本当に競争がはじまったかというと、実際はぜんぜんだったのよ。

■NTTの東西分割

一方のNTTはやっぱり一社独占でね、強かった。だけど、当時従業員数は40万人。この人材をほぼ独占状態の市場に置いておくのはどうしても、勿体ない。ぜひこの人達に競争してもらって、もっともっと通信インフラの向上に力を発揮して欲しいっていうふうに考えたんだよ。で、1997年に東西分割の改正NTT法が出来て1999年からNTT東西、コミュニケーションズに別れたの。でもそれでもね、やっぱりどこまで競争があったかっていうと、悲しくなっちゃうくらいに動かなかったの。

■携帯電話の市場

ところが、固定電話では起きなかった競争が起きるようになってきた。それがインターネット回線事業と、携帯電話。やっぱり、新しい市場ではサービスがものを言う。だからADSLであったり、携帯で音楽コンテンツをはじめたり、携帯でテレビが見られるようになったり、写真を撮ったり送れるになったりしたことで、少しずつ顧客の奪い合いが活発になった。

だから、ナンバーポータビリティとか、ユニバーサルサービスファンド料、端末奨励金の廃止なんていう話が出てくる。これらは、携帯電話市場でちゃんと市場原理が働くようにしましょうっていう制度だよね。これらは光の道の前に、ずっとやってきたこと。

そうすると、ご存知の通りSoftbankが何ヶ月連続で純増数一位っていうような、もちろん例えばappleのおかげもあったんだと思うけれど、それも含めてサービスラインナップだからね、そういう競争環境が出来てきた。つまり、日本の通信事業ではじめて一社独占ではない市場が出来た。

■そこで出てくる「光の道」議論

ここでやっと出てくるのが、NTT東西のアクセス回線部門。光の道の中心。現状ではSoftbankもauもdocomoもここにお金を払って、通信サービスを提供している。ここの接続料がまだまだ高い!そして、遅い!これを100%ブロードバンド対応にしましょうよ、っていうのが原口さんの光の道。そして、それに対してソフトバンクが別会社を作って効率化をはかれば十分可能ですよ!っていう提案をしたんだね。

■ソフトバンクの「光の道」

ただ、思い出して欲しいのは1980年の頃から通信事業者に対して総務省がやってきたことっていうのは一貫してて、いかに「競争環境」を作れるかっていう話だった。なのに、一社でやれば効率化されてすぐに出来るし安く出来るっていうのは、流れに逆行していうように思えない?

もしかしたら、最初はいいかもしれない。うまいこといけば2015年に100%とは言わないまでも、ある程度達成されるかもしれない。
でも、その通信インフラは競争相手がいない。ただ、ケーブルのメンテナンスをしているだけで、回線料が半永久的に入ってくる。そんな会社が2030年になっても日本の通信インフラを作っていられるとは思えないでしょ。

■全員に平等の不平等さ

ちょっと話が変わるけれど、都内で電車に乗ると三分に一本電車が来て、車内広告は液晶。かたや、地方では一時間に二本しか電車がこないし液晶もついていない。それなのに初乗りの値段は倍以上する。こういうのをコスト発想という。一般的に企業を経営している人はこういう発想をする。沢山売れるから安く出来る。高機能に出来る。でも、みんな日本人なんだから全国どこでも同じサービスを同じ費用で受けられるべきだ!っていう議論もある。例えば、学校に行くとか、病院に行くとか、電気代、水道代とね。

果たして、通信網っていうのはどっちかな。

NTTも本当は株式会社だから、本当にコストベースで考えていくとなると効率の悪い所に線をひいたら株主に怒られちゃう。もっと利益に還元しろ!ってね。だからそうならないように、NTT法がNTTはこれだけはしっかりやってくださいね!ってなってるんだよね。

■競争環境

もう一方で忘れてはいけないのが、グループ会社としてみたときに、SoftbankはYahooというコンテンツをもっている。auもコンテンツを持っている。でも、docomoはグループ会社の強みを使ってはいけない。なぜならNTT法によって規制されちゃってる。だから、NTT法が足かせになってしまっていて競争にならない!という側面もあるんだ。NTT法なんて早いとこなくなって欲しい!って思ってる人も少なくないんだよ。

NTTはグループなのにグループとして戦えない弱みと、今までの資産っていう強みの両方にしばられてしまっていて、正当な競争とはなかなか言えないんだよね。

■光の道骨子案

結局、今回はこのまま大きく動かさずにNTTへの監視を強めて、アクセス回線会社としての役割をもっともっと果たしていってもらいましょう。っていう結論になったんだけれども、僕がいちばん面白いと思うのはソフトバンクなりauなりが別にアクセス回線会社を作ってしまって、本当に競争出来る体制を作ることだよね。NTTに頼る必要ありません。がっぷりよっつで戦えますよ!って。そうしたらNTT法もついに撤廃する準備が整う。

電気や、水道と光ケーブルが違うのはね、中を流れるものが「限りある資源」なのかそれとも「無限のデータ」なのかってこと。データはある意味では際限がない。だから、例えば全国に二重に光ケーブルがまかれていても、全く問題ないわけ。むしろ、そうやって競争をしないとエンターテイメントのコンテンツは残っていかれない。若い女性向けのエンターテイメント情報誌は一冊あれば十分!てことはないでしょ?どんなに人気のある嵐でも、彼らだけいればOKじゃないよね。いろんな選択肢があるんだもん。
そういう土壌を上手に作るっていうのが、本当に大事なんじゃないかな。

黒川和美